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徒然なる日々のそんな話
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 あぁ…


月と星が鮮やかに輝く夜。
冷たい空気に、あたしの感嘆の吐息が。
溶けて、消えた。


突如、目の前に現れた「一枚の絵」に。
あたしは、魅せられる。

月光に映える金の髪。
光り輝く一対の、純白の羽…

何時も見てるはずの後姿に、あたしは目とココロを奪われる。
そして、思い知る。

 この人は、自分とは違う。、のだと。

時折、疎ましいとさえ呟くその羽は。
決定的な違いを突きつける。

解っていたのに。
「解っていた」ことと「思い知る」ことは全くの別次元だと。
いまさら、気づく。

あたしのような、ただのニンゲンからすれば、永遠と思える時を渡り歩く種族。
何時も気軽に触れていたそれに、急に気後れを感じて、手を止めた。

 こんなに、この背中は遠かった?

触れるだけで壊れそうな、完璧な絵。

ぐっと握り締めてたこぶしは、いつの間にか胸をかきむしる。
思い知ったことを、理解してしまったことを認めたくなくて。
ゆるゆると頭を振った。

 本当は……だなんて。



ん?と、眼差しが振り返る。
逆光の中でもはっきり見えるその瞳に全部映し出されそうで。
知られたくなくて、認めたくなくて。
崩れそうになる心を叱咤して。
何時ものように。
勝気に笑った。
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昔。

「君と僕の、悲しい歌が好きだね」

そんな風に言われたことを。
ふと、思い出した。

「…そうかな?」

そんなように、答えた気がする。


今なら、なんて答えるだろう。


自分と相手の歌なんかいっぱい有るじゃないか。
悲しい歌が好きなんじゃないよ。
悲しいから好きなんじゃないよ。

…違うな。

「悲しいかな?優しく、ない?」

悲しいかもしれない、切ないかもしれない。
でも、時には不器用な、時には素っ気無い。
でも、確かな温かさと優しさの、うた。


自分に一番足りない、優しさが。
此処には、溢れてる。
聞いたくらいで、己のものに出来るわけでもないけど。
それでも、って思ってしまう。


ねぇ、聞いてみてよ。
悲しくなんか、ない。

優しさのうたを胸いっぱいに吸い込んで。

言葉と言う風に乗せてみよう。


…ちょっと悲しい。
ちょっと切ない。
でも、優しくなれるよ。

きっと、ね。
何時からだろう。
この腕に、足に、身体に、ココロに。
見ない糸が引っ掛かり出したのは。
その糸は増え、きつく締め上げ、呼吸と自由を奪う。

 痛い…苦しい…

喘ぐ。
音にすら成らないような声で。

 誰か…どうか…

願う。
何千何万と同じコトを。


わずかにしか動かない指を空へと掲げ。


何時からだろう。
こうなってしまったのは。

止まりそうな思考で。

誰が、何が。
自分をこうした?

消えそうな声で。

 あぁ、でも。

もう、どうでも良くなってきた。

こうなってまで、何を望んでいたか。
こうなってまで、何を求めていたか。

もう、この声は誰にも届かない。
もう、この手は誰にも触れられない。

だから、もういい。

言いたかったことも。
聞きたかったことも。

山ほどあったはずなのに。


 ねぇ…?

ふぅ、と細く長く吐き出された吐息。

 ………。

誰かに、何かに、何かを。
最期に伝えて。

掲げていた指が、力なく落ちた。
ぼふっ、と思いっきり身体を預けた。
途端に広がる草の香。
こそこそ、っと顔をくすぐる。
目の前には遮るもののない。蒼い空が広がって。
まぶしいお日様が元気に顔を出してる。
少し身体を起こせば、地の果てまで広がる草原と並行する雲海。

色んな場所を冒険して。
世界の果てまでも踏破し、見てきたあたしの、お気に入りの場所のひとつ。
とりあえず身の危険もない、穏やかな大地のど真ん中で。
ゆっくりと目を瞑る。

太陽の匂い。
草の匂い。
風の匂い。

………。






意識の隅に感じた温かい気配。
投げ出しままの手に触れる柔らかさ。
…キミの香り。

何も言わず。
ただ傍らに座り、時折手を握り直したり、指を弄んでいる。

 …なに?こんなトコにまで探しに来たの?

重い瞼。
醒めない思考。
出ない言葉。

必死に指先を動かすと。
応えるように淡緑の瞳が穏やかに笑った。



太陽の匂い。
草の匂い。
風の匂い。
…キミの香り。



まどろむ意識に笑顔を抱えて。
なんだか嬉しい気分のまま、眠りに落ちる。
そんな優しい午後のひととき。
 …一人にしないで…

消えそうなか細い声で、キミが言った。

 もう、一人はいやなんだ…

数歩先を行くあたしの足が止まる。

 一人は耐えられないよ…

ぽろぽろと零れる、まるで独り言のような悲しみを。
あたしは一体どんな顔で聞いていたんだろう。

…なんで…そんなコトを言うの?

笑い合える友人が居るじゃない。
肩を並べられる友人が居るじゃない。

決して一人ではないはずなのに。
キミは独りと言う。


あたしと同じ、どこか頑ななココロを抱くキミの口から。
初めて紡ぎ出される、悲しみの歌。

 …一人にしないで、一緒に居て。

どうして、あたしに願うの?
あたしは何も出来ない。
キミの力になることも、支えになることも、側に居ることすらも。
何ひとつ、まともに出来やしないのに。
どうして、あたしを求めるの?
何ひとつ、あたし自身のコトすら解ってないのに。


それでも、何故だろう。
繰り返される歌を聴きながら。
あたしはキミの前に跪く。

 大丈夫だよ。

そんなコトバが口を突いた。
何故だろう、何ひとつ答えを見つけられなかった、あたしのココロが…

たったひとつ、答えを手に入れた。
たったひとつ、決めた。

初めて約束する。
初めて誓う。
自分以外の「誰か」に。

…もしかするとあたし自身が望みながら、知らなかった振りをしていただけなのかもしれない。
それくらい、穏やかによどみなく。

 居るよ。キミの、側に。

だから、悲しまないで。


驚いたように上がったキミの顔。
しばらくして。
涙で濡れたキミがようやく笑った。




 …行こう。一緒に。
 …行こう。共に在るために。